KEIICHI
SUGIYAMA
Architect*

櫨谷のハナレ
Annex in Hazetani

神戸市郊外の市街化調整区域内に建つ明治頃築の農家の増築(ハナレ)である。敷地周辺は長閑な田園風景が広がり、茅葺きや瓦葺きの古い農家が点在している。茅葺きの屋根の形がなだらかな地形のアクセントとなり、南側の田んぼには古い石積みの畦畔が残っていて、永い時間を感じさせる。稲刈りの季節にはその畦道に彼岸花の赤が咲き乱れる。ふと立ち止まりたくなるような自然の美しさに気づくためのシンプルな空間づくりを心掛けた。
既存の美しい風景を壊さず環境に馴染ませること、一方でモダンな外観も好まれた。外装はメンテナンスやコストの観点から屋根はガルバリウム鋼板の立ハゼ葺きに、壁はサイディングに吹付塗装とした。ただ懐かしい素材感で作るのではなく、サイディングや波板など新しい建材を用いつつ、目の前の風景を切り取り、日常にハッとするような瞬間を取り入れようとした。具体的には母屋と床のレベルや南側の壁面の位置を揃え、西側に建つ農業用倉庫のグレーのアノニマスな雰囲気と、母屋の亜鉛鉄板波板葺きのシルバーの大屋根と軒下の濃い影の対比が作る強いコントラストを外観に引き継ぎ、周辺のなだらかな傾斜に呼応するように緩勾配の屋根をかけて風景に同化させた。一方で母屋の急勾配の茅葺き屋根の強い形は今まで通りの存在感を発揮し、「ハナレ」の赤みを帯びた土色に塗装された壁面が、里山や田んぼの緑の補色として日常の風景を切り取る。
将来は子世帯の住まいとなる「ハナレ」は、母屋と適度な距離を保ちつつも、家族で共有できる新しい生活の場となる。南側は元々閉鎖的なブロック塀で囲われた庭が生活のバリアとなっていたが、道路後退に伴い、農作業の利便性や「ハナレ」の共有し易さを考慮したオープンな外溝とした。母屋と「ハナレ」の間はレンガ敷きとし、共有の土間としている。母屋からの出入りは今後より一体的に活用できるよう提案していきたい。内部は小さな空間に変化をつけるためにいくつか壺の口のように「クビレ」となる空間を設けている。玄関は母屋側に庇を突き出してトンネル状の空間を設け、「ハナレ」の内と外の境界であると同時に、敷地の内と外をつなぐ境界としても機能させている。居室は合わせて3つあり、1階の広間と北側の寝室をつなぐ動線の空間、1階と2階の洋室をつなぐ階段や上下階をつなぐ開口部が「クビレ」となり、小さな空間の中に小さな「間」を挟み込むことで豊かな変化を生み出す。

  • 所在地 \ 神戸市
  • 主要用途 \ 専用住宅(離れ)
  • 設計 \ 杉山圭一建築設計事務所 杉山圭一
  • 構造 \ 天野建築構造設計事務所 天野悦治
  • 施工 \ ATARI
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  • 主要構造 \ 木造
  • 敷地面積 \ 821.24m2
  • 建築面積 \ 61.66m2
  • 延床面積 \ 92.17m2
  • 階数 \ 地上2階
  • 設計期間 \ 2021年11月〜2023年10月
  • 工事期間 \ 2023年11月〜2024年10月
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  • 撮影 \ 松村芳治